リコールはがきの費用
1通の総コストと「何人戻れば元が取れるか」
定期検診の案内はがきを「1通85円の郵送料だけ」と考えていませんか。実際には、はがき代・印刷代に加えて、対象リストを作り、印刷し、投函するまでの受付スタッフの作業時間が乗ります。この「見えにくい人件費」まで入れて初めて、1通の本当の総コストが見えます。
この記事では、はがき1通の総コストの内訳と出し方を整理し、「何人戻れば元が取れるか」を自院の平均単価で計算する方法を紹介します。金額はすべて目安です。部数や仕様、地域によって変わるので、計算方法を持ち帰って自院の数字に置き換えてください。
まず結論: 1通の総コストは「100円台」が目安
やり方によって幅がありますが、人件費まで含めた1通の総コストの目安は次のとおりです。
| やり方 | 現金コスト/通 | 人件費を含めた総コスト/通(目安) |
|---|---|---|
| 郵便はがきを買い、院内プリンタで印刷 | 85円+インク等 数円 | 約100〜140円 |
| 私製はがきを印刷会社に外注+郵送 | 印刷代 数十円+郵送料85円 | 約130〜200円 |
| 印刷〜発送の代行サービス | 1通数十円〜(条件で変動) | 約100〜200円 |
ポイントは、どのやり方でも「85円」では終わらないことです。そして対象が300通、500通になれば、差はそのまま総額の差になります。以下、内訳を分解します。
コストの内訳を分解する
1. 郵送料・はがき代: 85円(固定)
通常はがきの料金は85円です(2024年10月の郵便料金改定で63円から85円になりました)。日本郵便のはがきを買えば、この85円の中に紙代も含まれます。私製はがきを使う場合は、紙・印刷代とは別に、85円分の郵送料(切手)がかかります。ここは部数によらず1通ごとに確実にかかる固定費です。
2. 印刷代: 数円〜数十円(部数で大きく変動)
- 院内印刷: 郵便はがきに自院のプリンタで印刷する場合、追加コストはインク・トナー代の数円程度。ただし、両面印刷の手間と、印刷ミス・紙詰まりのロスは作業時間として効いてきます。
- 印刷会社に外注: 両面カラー+宛名印刷まで頼むと、1枚あたり数十円が目安です。単価は部数に強く左右され、数百枚程度の小ロットでは割高、数千枚では下がります。初回の版下・データ入稿の手間も見込んでください。
- 発送代行サービス: 「印刷から発送まで1通数十円〜」と掲げるサービスもありますが、これは配送方法(通常郵便か、安価な配送手段か)や部数で単価が変わる「〜(から)」の価格です。自院の条件(通数・仕様)で見積もりを取らないと、実際の単価は分かりません。
3. 人件費: いちばん見えにくく、無視できない
総コストで差がつくのはここです。はがきを出すまでには、次の作業が必ず発生します。
- 対象患者さんの抽出(レセコンから最終来院日で絞り、治療中・予約済みの人を除く)
- リストの確認(転居・連絡拒否・重複のチェック)
- 文面の作成・確認、印刷、宛名の確認、投函
- 戻ってきたはがき(宛先不明)の処理
人件費の出し方はシンプルです。「作業にかかった合計時間 × スタッフの時給 ÷ 通数」で、1通あたりの人件費が出ます。
例えば、300通の発送に抽出・印刷・確認で合計3時間かかり、時給が1,200円なら、人件費は3,600円、1通あたり12円です。抽出に手間取る医院では作業が5〜6時間になることもあり、その場合は1通あたり20円前後まで上がります。金額としては小さく見えますが、「受付の3時間が、電話対応や会計を止めて生まれている」という点が本質です。費用と同時に、受付の時間そのものが消費されていることを忘れないでください。
4. 見落としがちなコスト
- 送らなくてよかった人への分: 転居済み・治療中の人に送った分は、純粋な無駄になります。対象の線引きが甘いほど、この割合が増えます。
- 機会損失としての時間: 上記のとおり、発送作業の時間は他の受付業務から割かれています。
- 在庫: 印刷したはがき・用紙の余り、デザイン変更時の作り直しなど、地味に発生します。
外注するときの見積もり確認項目
印刷や発送を外注する場合は、見積もりの「1通単価」だけで比べないことが大切です。次の項目が含まれているかで、実際の総額は変わります。
- 郵送料は含まれているか(含まれていない場合、85円/通が別途かかる)
- 宛名印刷・宛名データの加工費は含まれているか
- 最低発注部数と、部数が少ない場合の単価はいくらか
- 初期費用(版下・データ入稿・デザイン)はいくらか
- 発送までの日数と、差し出し方法(郵便局への差し出しまで含むか)
「1通○円から」という表示は、大量部数・安価な配送方法を前提にした最安値であることがほとんどです。自院の実際の条件(部数・仕様・納期)で総額見積もりを取り、その総額を通数で割って初めて、比べられる1通単価になります。
総コストが見えたら、次は損益分岐です。計算式は1つだけです。
総コスト ÷ 自院の「戻った患者さん1人あたりの平均単価」= 元を取るのに必要な戻り人数
ここでいう平均単価は、検診で戻ってきた患者さんが、その回の来院で生む売上の平均です。保険中心の医院と自費の比率が高い医院では大きく違うので、必ず自院の数字(レセコンの集計で出せるはずです)を使ってください。
試算例(あくまで「例えば」の計算です)
仮に、300通を総コスト1通150円で送ったとします。総コストは45,000円です。
| 自院の平均単価(1回の来院) | 元を取るのに必要な戻り人数 | 300通あたりの割合 |
|---|---|---|
| 5,000円 | 9人 | 3.0% |
| 8,000円 | 6人 | 2.0% |
| 12,000円 | 4人 | 1.3% |
見方として大事なのは、「数%の戻りで計算上は並ぶ」という水準感です。逆に言えば、対象を絞り込まずに通数だけ増やすと、総コストが先に膨らみます。
この計算を使うときの注意(3つ)
- これは売上ベースの目安で、利益の約束ではありません。 材料費などの変動費は見ていませんし、「送ったから戻った」という因果関係を証明するものでもありません。あくまで判断のための物差しです。
- 継続来院は計算に入れないのが無難です。 戻った方がその後も定期的に通えば、実際の価値はこの計算より大きくなります。ただ、それを見込んで計算すると楽観的になりすぎるので、まずは「1回の来院分だけで合うか」で見るのが安全です。
- 分岐は「戻った人数を数えられる」ことが前提です。 送ったあとに何人戻ったかを数えられないと、この計算は絵に描いた餅になります。専用QRコードをはがきに印刷する、月末に送信リストと来院リストを突き合わせるなど、「戻った数」を事実として数える仕組みとセットで使ってください。因果の断定はしなくて構いません。「案内のあとに来院した人数」を毎月同じ方法で数え続けることが、判断材料になります。
応用編: 粗利ベースで見る場合
もう少し厳密に見たい場合は、平均単価から変動費(材料費など、来院が増えると比例して増える費用)を差し引いた「1回来院あたりの粗利」で割ります。粗利は医院の診療構成で大きく異なるため、ここでも自院の数字が必要です。売上ベースの計算で「6人戻れば並ぶ」場合、粗利ベースでは必要人数はもう少し増えます。どちらの物差しを使うかは医院の判断ですが、「売上ベースは楽観寄り、粗利ベースは保守寄り」と理解したうえで、月ごとの判断には同じ物差しを使い続けることが大切です。物差しを途中で変えると、前月との比較ができなくなります。
年間で見るとどうか
呼び戻しは1回きりの施策ではなく、続けるものです。総コストは年間で見ると印象が変わります。
例えば、300通・1通総コスト150円の発送を年に4回行えば、年間の総コストは180,000円です(あくまで同じ条件で続けた場合の試算です)。この金額を「広告宣伝費として妥当か」「受付スタッフの残業や負担と比べてどうか」という経営の物差しで見ると、判断の軸がはっきりします。逆に、対象を精査して1回あたりの通数を200通に絞れれば、同じ頻度でも年120,000円まで下がります。年間で見ると、「単価を下げる努力」と「通数を絞る努力」のどちらが効くかも明らかになります。
SMS・LINEと比べると
参考までに、他の媒体の1通コストの目安です。
| 媒体 | 1通あたり(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| SMS | 数円〜数十円 | サービスと送信方式で変動。月額基本料が別途かかる場合がある |
| LINE | 数円〜数十円 | 公式アカウントの料金プラン内で送る場合は実質固定費に近い |
| はがき | 総コストで100円台 | 上記のとおり。住所しか分からない方に届く唯一の手段 |
なお、SMSの料金体系には「送信した通数に課金される方式」と「届いた通数に課金される方式」があり、携帯番号の誤りなどで届かなかった分まで費用がかかるかどうかが変わります。見積もりを比較するときは、単価だけでなく課金の方式も確認してください。また、SMSは文字数によって1通として送れる範囲が決まり、長い文面は複数通分に分割されて課金される場合があります。文面を短く保つことは、そのままコスト管理でもあります。
単価だけ見ればデジタル媒体が圧倒的に安いのは事実です。ただし、届く相手が違います。携帯番号がない・LINE登録がない患者さんには、はがきしか届きません。「はがきをやめるか」ではなく、「誰にはがきで、誰にSMS/LINEで送るか」の配分の問題として捉えるのが現実的です。媒体の使い分けについては、別記事「リコールはがきの文例と、SMS・LINEへの置き換え方」でも整理しています。
パターン別の総額シミュレーション
最後に、規模の違う3つのパターンで総額の感覚を掴みます。いずれも「例えば」の試算であり、1通単価はこの記事の目安の範囲から置いた仮定の数字です。
| パターン | 通数/回 | 1通総コスト(仮定) | 1回あたり総コスト | 年4回なら |
|---|---|---|---|---|
| 小規模・院内印刷中心 | 150通 | 110円 | 16,500円 | 66,000円 |
| 中規模・印刷外注 | 300通 | 150円 | 45,000円 | 180,000円 |
| 対象が多く外注活用 | 600通 | 170円 | 102,000円 | 408,000円 |
ここで注目してほしいのは金額の大小そのものではなく、通数と頻度で総額がほぼ決まってしまうという構造です。単価を5円下げる交渉より、対象を精査して通数を1割減らすほうが、年間総額への効き方は大きくなります。そして通数を絞る判断に必要なのが、「どの区分・どの媒体で、どれだけ戻っているか」という記録です。コスト管理と計測は、切り離せないセットだということです。
コストを下げる前にやること
単価交渉よりも先に効くのは、次の2つです。
- 通数を減らす(対象の精度を上げる)。 治療中・予約済み・転居判明の人を確実に除くだけで、無駄な通数は減ります。単価を10円下げるより、不要な50通を止めるほうが総額は下がります。
- 測れる形にする。 専用QRコードや専用リンクで「戻った数」が見える状態にすれば、翌月以降は「どの対象・どの文面が戻りやすいか」で通数を配分できます。コスト削減は、測れるようになってからが本番です。
自院で計算するためのワークシート
最後に、この記事の計算を自院で再現するための項目を並べます。上から順に埋めるだけで、1通の総コストと損益分岐が出ます。
| 項目 | 自院の数字 |
|---|---|
| 1回の発送通数 | ○○通 |
| はがき代・郵送料(1通) | 85円(固定) |
| 印刷代(1通) | ○○円 |
| 作業時間の合計(抽出〜投函) | ○○時間 |
| 作業したスタッフの時給 | ○○円 |
| 人件費(1通)= 時間 × 時給 ÷ 通数 | ○○円 |
| 1通の総コスト = はがき代 + 印刷代 + 人件費 | ○○円 |
| 総コスト = 1通の総コスト × 通数 | ○○円 |
| 自院の平均単価(戻った方の1回来院) | ○○円 |
| 元を取るのに必要な戻り人数 = 総コスト ÷ 平均単価 | ○○人 |
ポイントは、計算そのものより「毎回同じ項目で埋める」ことです。発送のたびにこの表が溜まっていけば、「コストが下がったか」「戻り人数は分岐を超えたか」を、感覚ではなく記録で振り返れるようになります。
まとめ
- はがき1通の総コストは、郵送料85円に印刷代と人件費を加えて「100円台」が目安
- 人件費は「作業時間 × 時給 ÷ 通数」で出す。受付の時間が消費されている点こそ本質
- 損益分岐は「総コスト ÷ 自院の平均単価」。例えばの試算では、戻り率で数%が分岐の目安になる
- ただしこれは判断の物差しであり、効果の保証ではない。「戻った数」を数える仕組みとセットで使う
- 単価より先に、対象の絞り込みと計測の形を整える
シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。定期検診の呼び戻しでは、対象の抽出・文面の作成・送信・「戻った予約と来院を数えての報告」までを、すべて医院の承認制で運用します。文面の下書きはAIも使いますが、患者さんとの直接の接点は人間が担う、というのが私たちの原則です。
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