電話の折り返しを漏らさない記録の作り方
伝言メモの標準様式を決める
「折り返します」と言ったのに、誰もかけ直していなかった。逆に、2人のスタッフが同じ患者さんに別々に電話してしまった。折り返しの漏れや二重がけは、スタッフの注意力の問題ではなく、記録の置き場所と書き方が決まっていないことから起きます。
折り返し運用全体の設計(期限の決め方や体制づくり)は別の記事で扱いました。この記事では、その土台になる「記録」そのものに絞って、誰が・いつ・何を折り返したかが一目で分かる標準様式の作り方を整理します。
折り返しが漏れる3つの典型パターン
様式の話の前に、漏れが起きる仕組みを確認しておきます。多くの医院で、原因は次の3つに集約されます。
- 記録が散らかっている。 付箋、個人の手帳、口頭の申し送り。記録の場所が複数あると、どれが最新で、どれが未対応か分からなくなります。
- 「誰がやるか」が書かれていない。 記録があっても担当が空白だと、「誰かがやるだろう」で止まります。
- 終わったかどうかが分からない。 折り返した記録と、まだの記録が混ざっていると、確認に時間がかかり、結局漏れます。
つまり対策は、「記録は1か所」「項目を固定」「状態が見える」の3点です。様式づくりは、この3点を紙や表計算ソフトの形に落とす作業だと思ってください。
ルール1: 記録の置き場所は1つに決める
媒体は何でも構いません。受付に置く共用のノートでも、共有の表計算シートでも、予約システムのメモ機能でもよい。大事なのは次の2点です。
- 折り返しの記録は、この場所にしか書かないと決めること
- 個人の手帳や付箋に書いた場合は、その場で本体の記録に転記し、付箋は捨てること
特に付箋は、貼った場所から剥がれたり、別のスタッフの目に入らなかったりと、漏れの温床になりやすいものです。「付箋は一時メモ、本体への転記までが1セット」と決めるだけで、漏れは減らせます。
ルール2: 書く項目を固定する(標準様式)
記録の項目は、多すぎても少なすぎてもいけません。折り返しの実務で本当に必要なのは、次の9項目です。
なお、この9項目は、別記事『折り返し運用の作り方』で示した7項目の基本形を、記録様式として詳しくした「詳細版」です。基本形に「受けた人」と「内容の要点」を加え、「結果」を(かけた日時/つながったか/伝えた内容/次にどうするか)まで分けて書く形にした点が、詳細版としての追加分になります。
| # | 項目 | 書く内容 |
|---|---|---|
| 1 | 受けた日時 | 電話を受けた月日・時刻 |
| 2 | 受けた人 | 電話に出たスタッフの名前 |
| 3 | 相手 | 患者さんの氏名(読み方も)。家族など代理の方ならその続柄 |
| 4 | 連絡先 | 折り返す電話番号。普段と違う番号なら、その旨も |
| 5 | 用件の分類 | 予約/変更・キャンセル/問い合わせ/症状の相談/その他 |
| 6 | 内容の要点 | 伝言の要点を短く。詳しい症状などは書きすぎない(後述) |
| 7 | 期限・優先度 | 「本日中」「明日午前まで」など、折り返す目安 |
| 8 | 担当 | 折り返す人。未定なら「未定」と書いて空欄にしない |
| 9 | 結果 | かけた日時/つながった・不在/伝えた内容/次にどうするか |
様式の記入イメージは次の通りです(内容は様式を示すための例です)。
| 受けた日時 | 受けた人 | 相手 | 用件 | 期限 | 担当 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 11/7 10:20 | 佐藤 | 山田さま(本人) | 予約変更 | 本日中 | 鈴木 | 11/7 12:05 折り返し済み。11/14 15時に変更で確定 |
| 11/7 11:45 | 鈴木 | 高橋さま(妻) | 症状の相談 | 優先 | 院長確認 | 11/7 12:30 院長に取り次ぎ済み |
9項目のうち、漏れ防止に効くのは実は「8. 担当」と「9. 結果」です。担当が名前で決まっていること、結果欄が空なら「まだ終わっていない」と一目で分かること。この2つが様式の心臓部です。
ルール3: 状態が見えるようにする
記録は「書くこと」より「見返すこと」で効きます。状態が見える工夫を、様式側に組み込んでおきます。
- 未対応が目立つ形にする。 結果欄が空の行に色を付ける、未対応の伝言だけを上に集める、など。「終わっていないもの」が先に目に入る形が理想です。
- 確認のタイミングを決める。 たとえば昼休み前と診療終了前の2回、担当者と別のスタッフが未対応を確認する。誰か1人の注意力に頼らない仕組みにします。
- 期限切れは翌日に持ち越さない。 その日に終わらなかったものは、理由と次の期限を結果欄に書いて、翌朝の申し送りの先頭に置きます。
書き方の細かい決めごと
様式が決まったら、書き方のばらつきを減らすために、次のような細部もそろえておくと読み返しが速くなります。
- 時刻は24時間表記、氏名には読み仮名。 同姓の患者さんの取り違え防止にもなります。
- 略語は院内で決めたものだけ。 個人の略し方は、他のスタッフに読めません。
- 内容は「要点だけ」。 特に症状の相談では、患者さんの話を詳しく書き起こす必要はありません。「痛みの相談、院長に取り次ぎ希望」のように、橋渡しに必要な範囲で足ります。詳しい記録は診療側の記録に残すものです。
- 折り返して不在だったときも結果に残す。 「11/7 15:00 不在、夕方再コール」と書けば、別のスタッフが間を置かずに重ねてかける無駄がなくなります。なお、再コールを何回まで行うか、つながらない場合にどう切り替えるかというルール自体は、別記事『折り返し運用の作り方』で扱っています。ここで決めるのは「不在だった事実も結果欄に残す」という書き方だけです。
紙のノートとデジタルのシート、どちらが合うか
様式の置き場所として、紙の共用ノートと、表計算ソフトなどのデジタルシートで迷う医院は多いと思います。どちらにも向き不向きがあります。
| 観点 | 紙のノート | デジタルのシート |
|---|---|---|
| 書き始めの速さ | 受話器を置いてすぐ書ける | 端末の起動・入力の手間がある |
| 検索・棚卸し | ページをめくって目視 | 絞り込みや色付けができる |
| 同時編集 | 1冊を奪い合う形になりやすい | 複数人で同時に扱える |
| 保管・持ち出し | 置き場所の管理が要る | アクセス権の管理が要る |
| 停電・障害時 | 影響なし | 使えなくなることがある |
小規模な医院で折り返しの件数が1日数件までなら、紙のノートで十分回ります。件数が増えてきたり、確認役と担当役を分けたくなったりしたら、デジタルに移すタイミングです。媒体よりも「1か所に集約されていること」のほうが本質なので、今の医院の件数に合うほうを選んでください。
1日のリズムに確認を組み込む
様式を作っても、見返す時刻が決まっていないと未対応は溜まります。ここでの確認は1つだけ、「結果」欄が空欄のままの行——つまり、まだ終わっていない伝言の棚卸しです。
- 朝(診療開始前)。 前日から持ち越した分に、結果欄が空欄の行が残っていないかを確認します。
- 夕方(診療終了前)。 その日の分が全部「結果」まで埋まっているかを確認します。終わらないものは、理由と翌日の期限を結果欄に書いて持ち越します。
確認の時刻を1日のどこに置くか、折り返しの時間をどう確保するかといった運用の組み立ては、別記事『折り返し運用の作り方』で扱っています。本記事の様式では「結果欄の空欄=未対応」という見え方さえ徹底すれば、この棚卸し自体は短時間で終わります。
なお、自分の書いた記録は自分では正しく見えてしまうものなので、この空欄チェックは「受けた本人以外」が目を通す形にしておくと、書き漏らしにも気づきやすくなります。
起きがちなトラブルと、様式側の予防策
折り返しにまつわるトラブルには、様式の工夫で予防できるものが多くあります。
- 番号の聞き違い。 折り返したら別の家にかかってしまった、という型です。予防策は、受けた時点で番号を復唱して確認し、記録にもそのまま書くこと。携帯番号は桁数が多いので、区切って読み上げる院内の型を決めておくと安定します。
- 同姓の患者さんの取り違え。 氏名に読み仮名と、可能なら生年月日やカルテ番号の一部を併記する欄があると防げます。様式の「相手」欄に最初から読み仮名の記入欄を作っておくのが確実です。
- 「言った・言わない」の行き違い。 折り返した内容を結果欄に短く残しておけば、後日の確認ができます。「伝えた」「済み」だけでは足りず、決まったこと(変更後の日時など)まで書くのがポイントです。
- 代理の方からの伝言の取り違え。 家族が代わりに電話してくるケースでは、「誰が・誰の用件で」が曖昧になりがちです。様式の「相手」欄に続柄まで書く決まりにしておくと、折り返す相手を間違えません。
いずれも、スタッフの注意力を上げる話ではなく、欄の作り方と書き方の決めごとで防ぐ話です。トラブルが起きたら、その都度「様式のどこを変えれば防げたか」で振り返ると、様式が医院の実態に合っていきます。
症状の相談が含まれる伝言の扱い
用件の分類が「症状の相談」の伝言は、記録の書き方だけを押さえておけば足ります。ポイントは次の3つです。
- 内容は要点だけを書く。 患者さんの話を詳しく書き起こさず、「痛みの相談、院長に取り次ぎ希望」のように、橋渡しに必要な範囲に留めます。
- 取り次ぎを結果欄に明記する。 院長(または歯科医師)へ伝えたら、その事実と時刻を結果欄に書きます(ルール2の記入イメージの2行目が、この形です)。
- 急ぎそうな内容は、期限欄に「優先」と書く。 期限欄への記入をもって、様式の上でも「優先の1件」として見える形にします。
どの伝言を誰が・どの順番で折り返すかという振り分けや優先順位の付け方は、別記事『折り返し運用の作り方』で扱っています。ここでは「記録にどう残すか」に絞ります。
なお、折り返しの記録には患者さんの連絡先や用件が含まれます。共用ノートは受付から持ち出さない、シートは医院のアカウント内で共有するなど、置き場所の管理も様式とセットで決めておいてください。
始め方——まず1週間、この様式で回してみる
新しい様式は、完璧を目指して作り込むより、まず1週間使ってみるほうが定着します。進め方は、様式の試行と項目の見直しに絞ります。
- 上の9項目で、ノートかシートに様式を作る
- 1週間、そのまま実際の運用で書き続ける。書きにくい欄・書き方に迷った欄があれば、その場で欄外にメモしておく
- 1週間後、メモをもとに、書きにくかった項目・使わなかった項目・足りなかった項目を見直して様式を直す
様式は「医院の実務に合うまで直してよいもの」です。最初から正解を作ろうとせず、書けなかった・漏れた事例が出たら、それが様式の改善点だと思ってください。
予約表・カルテとのつなぎ方
折り返しの記録は、単独で完結するものではありません。結果が予約の変更や新規予約につながった場合は、予約表への反映までが1セットです。ここでも行き違いが起きやすいので、次の決めごとを置いておくと安全です。
- 折り返しで予約が決まったら、その場で予約表に入れ、記録の結果欄には「予約表に反映済み」と書く
- 記録だけに日時を書いて予約表への入力を後回しにしない(後回しにした分が、二重予約や枠の空き違いの原因になります)
- カルテ側に残すべき内容(症状の相談の経緯など)は、受付の伝言記録ではなく診療側の記録に残し、伝言記録には「カルテ参照」とだけ書く
伝言記録はあくまで「折り返しの管理台帳」です。診療の記録と混ぜないことで、役割がはっきりし、見るべき人も明確になります。
様式のサンプルを自院用に直すときの観点
本記事の9項目は、あくまで標準形です。自院に合わせて直すときは、次の観点で取捨してください。
- 医院の電話の内容に偏りがある場合。 たとえば矯正の相談が多い医院なら、用件の分類に「矯正相談」を独立させるなど、分類は実態に合わせて増減してよいものです。
- 折り返しの担当が院長に集中する場合。 「院長確認」という状態を結果欄の選択肢として用意しておくと、取り次ぎ済みかどうかが追いやすくなります。
- 項目は増やしすぎない。 あれもこれもと欄を増やすと、書く側の負担が上がって記録自体が続きません。「その欄がないと実際に困った」項目だけを足すのが、長く使える様式のコツです。
様式は完成させるものではなく、漏れが起きるたびに育てるものだと思ってください。月に1回、朝の申し送りなどで「今月、記録で困ったこと」を1つ出し合うだけでも、様式は実態に近づいていきます。
記録を残す期間と、古い記録の扱い
様式の運用が回り始めると、記録がどんどんたまります。残す期間の目安も決めておきましょう。一般には、折り返しが完了した記録は、その月の分をひとまとめにして月単位で保管し、一定期間(医院の記録の保管方針に合わせて設定してください)が過ぎたら処分する、という形が扱いやすいはずです。
なお、折り返しの過程でカルテや予約表に移した内容は、そちらが正本です。伝言記録は管理台帳なので、長期保管の対象は診療側の記録である、という整理をしておくと、保管スペースやデータが際限なく増えることを防げます。患者さんの連絡先を含む記録ですので、処分の際も通常のゴミとして捨てず、医院の個人情報の取り扱いに沿って処理してください。
まとめ
折り返しの漏れは、記録の置き場所が1つで、項目が固定されていて、終わっていないものが見える——この3つがそろえば防げる種類の問題です。担当と結果の2欄を空欄にしないこと、確認のタイミングを1日2回決めること。この小さな型が、受付全体の安心感につながります。
シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。定期検診の呼び戻しやGoogle口コミの返信など、患者さんとの直接の接点の「裏側」にある設計と運用を、すべて医院の承認制で代行します。準備や集計はAIも使って効率化しますが、患者さんとの直接のやり取りは人間が担う、というのが私たちの原則です。電話の折り返しそのものは医院の大切な接点ですが、その裏側の仕組みづくりや、呼び戻し・口コミ対応といった業務は外に出せます。
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