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承継で引き継ぐ患者リストと連絡手段の棚卸し


歯科医院の承継では、建物・ユニット・スタッフの引き継ぎに目が向きがちです。ところが、承継直後に困りやすいのは、意外と地味なところ——患者リストと連絡手段が、思った形で引き継げていないことです。

「検診案内を送ろうとしたら、前医院の送信履歴がどこにもない」「患者さんの携帯番号はあるが、案内を送る同意を確認した記録が見当たらない」「Googleビジネスプロフィールのオーナーが前院長の個人アカウントのままだった」。こうした行き違いは、承継の「棚卸し」の項目に入っていないと起きます。

この記事では、承継時の引き継ぎ対象を「患者リスト」「連絡手段」「アカウント類」に分けて、棚卸しの確認項目を整理します。

※本記事は実務の整理であり、法律の助言ではありません。事業承継に伴う個人情報の取り扱いには、個人情報保護法上の整理や、場合によって患者さんへの告知の要否などの論点があります。具体的な進め方は、契約の当事者間で取り決めるとともに、顧問の弁護士・税理士、社会保険労務士などの専門家に必ず確認してください。

棚卸しの全体像

分類主な引き継ぎ対象
患者リストレセコン・カルテの患者データ、最終来院日、連絡先
連絡手段検診案内の媒体と送信履歴、LINE公式アカウント、電話番号
アカウント類Googleビジネスプロフィール、HP(ドメイン・更新権限)、予約システム
運用の記録案内の文面、送信対象の線引きルール、未対応のままの事項

1. 患者リストの引き継ぎで確認すること

データとして何が残っているか

ここで大事なのは、「データがある」ことと「使える形である」ことは別だという点です。たとえば最終来院日が紙カルテにしか残っていない場合、休眠患者の抽出は目視作業になります。承継前に、リストとして書き出せるか(CSV等の形式で出せるか)を確認しておくと、承継後の運用設計が立てやすくなります。

休眠患者の扱いをどう引き継ぐか

承継のタイミングでは、「最終来院からどれくらい空いた人を呼び戻しの対象にするか」という前医院の線引きも確認項目です。前医院で長く案内を送っていない層がいるなら、承継直後にいきなり一斉送信するのではなく、案内の文面(院長交代のお知らせを含むか等)と対象の段階分けから設計することになります。これは実務の進め方の話で、対象範囲の判断は新院長の診療方針に沿って決めることです。

引き継ぎの範囲と記録

患者リストの引き継ぎは、契約上の対象範囲(何を・どの形式で・いつ渡すか)を当事者間で明確にしておくことが前提です。本記事では踏み込みませんが、棚卸しの表に「引き継ぎ方法と期日」の欄を作っておくと、承継直前の確認漏れを防げます。

リストの「鮮度」も数えておく

引き継ぐリストが「今の患者さんに届くリストか」も、目安でよいので把握しておきたい点です。住所が変わってはがきが戻ってくる、携帯番号が変更されていてSMSが届かない、といった情報の古さは、リストの名目件数と実際に連絡が取れる件数の差になります。

前医院にはがきの返戻や不達の記録があれば、それが鮮度の手がかりになります。記録がない場合は、承継後の最初の案内(院長交代のお知らせ等)の戻り・不達の数を数えることが、そのままリストの鮮度を測る最初の機会になります。名簿の件数だけで運用計画を立てないための確認です。

2. 連絡手段の棚卸し

検診案内は、何で・どう送られてきたか

承継後の呼び戻し運用は、前医院のやり方の把握から始まります。

とくに最後の「送ってはいけない相手の記録」は重要です。この記録が引き継がれないと、停止を希望した患者さんに承継後も案内が届く、という事故につながります。記録の所在は必ず確認してください。

電話番号とLINE公式アカウント

アカウントのID・パスワードを口頭やメモで受け渡すような形は避け、各サービスの正規の権限移譲の手順で進めるのが前提です。

3. アカウント類の引き継ぎ

Googleビジネスプロフィール

口コミ運用の土台です。確認項目は次の通りです。

前医院時代の口コミと返信は、そのまま医院の顔として残ります。承継後に「誰が・いつまでに返すか」の体制を決める際の材料として、過去の返信文は一読しておく価値があります。

ホームページとドメイン

予約システム・その他

4. 承継直後にやること(連絡まわり)

棚卸しが済んだら、承継直後の連絡まわりは次の順で進めるのが実務的です。

  1. 患者さんへのお知らせ

院長交代・医院名の変更がある場合は、HP・院内掲示・既存患者さんへの案内などで知らせます。案内の範囲と文面は、契約上の取り決めと専門家の確認を踏まえて決めてください。

  1. 連絡が途絶えない状態の確認

電話番号、GBP、HPの情報が新しい体制で正しく表示されているかを一通り確認します。

  1. 呼び戻しは段階を分けて再開する

前医院の送信履歴と停止希望の記録を引き継いだうえで、対象を段階分けして再開します。承継直後の一斉送信は、情報の行き違いがあったときの影響範囲が大きくなります。

棚卸しの進め方——表の作り方と、聞き取りの相手

棚卸しは、チェックリストを眺めるだけでは進みません。実務上は、次の形が進めやすい進め方です。

棚卸し表の項目例

対象前医院での状態引き継ぎ方法・期日承継後の担当
患者データ(レセコン)例: レセコン管理、書出可否
案内の送信履歴例: はがき年2回、履歴の所在
配信停止の記録例: 所在と形式
LINE公式アカウント例: 有無、管理者
GBPオーナー権限例: 誰のアカウントか
HP・ドメイン例: 名義、制作会社

空欄が残った項目が、そのまま「承継直前に確認すべきこと」のリストになります。契約書の条項とは別に、この運用面の表を当事者(と仲介・支援者)で共有しておくことが、承継直後の行き違いを減らします。

前医院のスタッフから聞き取ること

前医院のスタッフが継続勤務する場合は、そのスタッフが持っている「表に出ていない運用」が貴重な引き継ぎ材料です。データの棚卸しと合わせて、次のような点を聞き取っておきます。

とくに「送ってはいけない相手」の情報が個人の記憶にしか残っていないケースは要注意です。継続勤務しないスタッフがいる場合は、引き継ぎの期間内に、記憶にある注意点を記録として残してもらう段取りを先に組んでください。

引き継げなかった場合——ゼロから作り直す手順

送信履歴や同意の確認記録が残っていない、というケースもあり得ます。その場合は、ないものを探し続けるより、承継時点を起点に記録を作り直すほうが現実的です。

  1. 患者リストはレセコン等の現行データから改めて抽出し、最終来院日・連絡先の登録状況を数え直す
  2. 検診の呼び戻しは、同意の確認が取れている範囲から段階的に始め、確認が取れていない層へは、来院時などの接点で意向を確認していく
  3. 案内の文面と送信記録の様式を新しく作り、承継後の送信からは必ず履歴が残る運用にする

「前医院でどうしていたか分からない」対象へ、確認なしに一斉送信することは避けてください。分からないことは分からないまま、確認できる範囲から始めるのが安全側の進め方です。

前医院時代の口コミへの向き合い方

承継で見落としがちなのが、Googleビジネスプロフィールに残っている「前医院時代の口コミと評価」です。口コミは医院のプロフィールに紐づくため、院長が交代しても消えません。患者さんから見れば、承継後も同じ医院の評価です。

新院長側の実務として整理しておきたいのは、次の3点です。

前医院がどういうトーンで返信してきたかは、患者さんが見てきた医院の姿勢です。承継後に返信のトーンを大きく変える場合は、その変化が患者さんにどう映るかも含めて判断します。

承継時点で未返信の口コミが残っている場合、どこまで遡って返すか(直近分のみ等)を院内で決めます。一律の正解はなく、件数と内容を見て決めることです。

前医院時代の診療への指摘に、新院長が内容の判断をして反論するような返し方は避けてください。事実関係の確認ができない以上、受け止めと今後の姿勢を示す範囲に留め、個別の事情が絡む場合は公開の場で深追いしないのが原則です。

なお、プロフィール自体の引き継ぎ(オーナー権限の移行)が済んでいないと、返信そのものができません。アカウント類の棚卸しとセットで進める項目です。

棚卸しチェックリスト

まとめ

承継後の運用は、引き継いだ情報の整い方で滑り出しが変わります。契約の検討と並行して、連絡まわりの棚卸し表を1枚作っておくことをおすすめします。


シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。Google口コミへの返信の運用(医院のトーンを言語化した「医院トーン辞書」にもとづく下書きと、医院の承認を経た公開)、口コミの依頼導線の設計、そして定期検診の呼び戻しまで、フロントデスクの裏側の運用を担います。下書きづくりにはAIも使いますが、患者さんとの直接の接点と、公開前の判断は人間が担う——というのが私たちの原則です。

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