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症例写真を広告に使うときの条件

ビフォーアフターを載せる前に


インプラントや矯正、ホワイトニングなど自費診療の案内で、「治療前・治療後」の写真(ビフォーアフター写真)を見かけることがあります。見た目に変化が伝わりやすい素材ですが、医療広告の中では、条件のもっとも厳しい部類に入ります。「効果が分かる写真だから載せたい」という発想のまま載せると、医療法の広告規制に触れるおそれがあります。

本記事は、治療の内容や方法を解説するものではありません。症例写真を「広告として使うときの条件」だけを、厚生労働省の医療広告ガイドライン(現行の通称は「医療広告等ガイドライン」)をもとに整理します。

※本記事は一般的な情報提供です。個別の写真・ページが条件を満たすかの判断は、写真の内容や併記する説明によって変わります。掲載前の最終確認は、所管の保健所や顧問の専門家に行ってください。

1. 出発点: 治療の「効果」は、広告できる事項に入っていない

医療広告の規制の大枠は、「広告してよい事項が法律で列挙されていて、それ以外は原則として広告できない」というものです。広告できる事項は、医院の名称・所在地・診療時間、診療科名、医師の略歴など、事実関係の情報が中心です。

治療の内容や効果は、この列挙の中に含まれていません。症例写真は、まさに「治療の効果」を視覚的に示す素材です。ですから症例写真は、「条件を整えれば使える例外的な素材」であって、「自由に使える素材」ではない、というのが出発点になります。

2. 直接の根拠: 「誤認させるおそれのある治療前後の写真」は禁止

医療法施行規則第1条の9第2号は、患者等を誤認させるおそれがある、治療等の前後の写真等の広告を禁止しています。

ここで重要なのは、写真が一律に禁止されているわけではない、というガイドラインの整理です。通常必要とされる治療内容、通常必要とされる費用、治療の主なリスク・副作用などについて、詳細な説明を付した場合は、「誤認させるおそれがある写真」には当たらないとされています。

逆に言えば、次のような使い方は禁止の側に倒れます。

また、撮影条件や被写体の状態を変えて効果を強調した写真は「誇大広告」として、加工・修正した術前術後の写真は「虚偽広告」の例として、ガイドラインで扱われています。明るさや角度を変えて「より効いたように見せる」加工は、それ自体が別の違反類型に触れます。

3. 条件の核: 「写真の近くに、詳しい説明を置く」

症例写真を使う場合に求められる説明は、大まかに次の要素です。

そして、これらを「写真の近く」に、通常の読みやすい形で置くことが条件です。別のページへのリンクで済ませたり、注釈として小さく添えたりする形式は認められません。

実務的には、「写真+その治療の説明文」が1つのまとまりとして読めるレイアウトになっているか、が確認の物差しになります。スマートフォンで見たときに、写真だけが先に表示されて説明が何画面も下にある、といった構成も、見直しの対象になり得ます。

説明の置き方のイメージ

構成だけを抽象化すると、次のような形になります(文面そのものの例ではなく、要素の並びを示すものです)。

【写真】治療前/治療後(同じ条件で撮影したもの)

【この治療について】治療の概要/通常必要とされる費用(標準的な範囲)/期間・回数の目安/主なリスク・副作用

写真と説明が視覚的にもひとかたまりになっていて、写真だけを切り取って見せる構成になっていないか——これが、レイアウト段階での確認ポイントです。制作会社にページの作成を依頼している場合は、「写真の隣接位置に説明を置くこと」「説明をリンクや注釈に逃がさないこと」を、デザインの要件として最初に伝えてください。デザインが固まってからでは直しにくい部分です。

4. もう1つの枠組み: 「限定解除」の4要件

症例写真に限らず、ホームページ等で自費診療の詳しい情報(治療内容・費用・リスクなど、通常は広告できない事項)を載せる場合には、「広告可能事項の限定解除」という仕組みの要件を満たす必要があります。要件は次の4つです。

  1. 患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイト等であること
  2. 問い合わせ先(電話番号・メールアドレス等)を明示し、容易に照会できるようにすること
  3. 自由診療について、通常必要とされる治療内容・標準的な費用・治療期間・回数を示すこと
  4. 自由診療の主なリスク・副作用等を示すこと

1つ目の要件が、媒体選びを左右します。患者さんが自ら訪れて読む医院のホームページは、この要件を満たす設計が可能です。一方で、バナー広告や、費用を払って上位表示させる検索連動型広告(リスティング広告)は、「自ら求めて入手する情報」とは扱われず、限定解除の対象になりません。つまり、同じ症例写真でも「自院のHPの治療ページ」と「広告枠」では、扱いがまったく違うということです。

症例写真を載せるページは、この4要件と、前節の「写真の近くに詳しい説明」という条件の、両方を満たす必要があります。「HPだから自由」ではなく、「HPの中で、要件をそろえたページでのみ使える」が正確な理解です。

5. 媒体ごとの安全線

媒体ごとに、症例写真の扱いの安全線を整理します。

「HPで使っている写真だから、SNSやGoogleにも載せておこう」という横展開が、もっとも起きやすく、もっとも危ないパターンです。媒体ごとに扱いを分けてください。

なお、チラシやポスターなどの印刷物も、限定解除の対象にはなりません。患者さんが自ら求めて入手する情報とは言えないからです。院内に掲示するポスター類も、受診を誘う内容であれば広告として扱われる可能性があります。「院の中だから自由」という区分はないと考えて、写真の使用はウェブ以上に慎重に判断してください。

6. 保険診療の症例写真は、さらに扱いが限られる

ここまでの整理は、主に自費診療の案内を想定したものです。保険診療については、事情がさらに厳しくなります。

限定解除の仕組みは、自由診療に関する情報をウェブサイト等に載せるための枠組みが中心です。保険診療の治療内容・効果は、広告できる事項の列挙に含まれておらず、「詳しい説明を付ければ保険診療の症例写真も載せられる」という単純な話にはなりません。保険診療の経過写真を集患目的で公開することは、原則として避けるべき領域と考えてください。

医院の現場では、「自費のページのついでに、保険の症例も」という発想が出やすいところです。自費と保険で扱いが違う点を、院内で共有しておくことが大切です。

7. 広告規制とは別の条件: 患者さん本人の同意

ここまでは広告規制の話ですが、症例写真にはもう1つ、別の条件があります。写っている患者さん本人の同意です。

治療前後の写真は、個人が特定され得る情報です。顔が写っていなくても、症例の内容や時期から本人が分かる場合があります。広告としての条件(説明の併記など)をすべて満たしていても、本人の同意がなければ使うことはできません。

同意を取る場合は、少なくとも次の点を書面で明確にしておくことが望ましいです。

なお、「広告ではなく学術目的の提示」は、受診を誘う意図がないものとして広告に当たらない場合があります。ただし、医院のホームページや集患目的の発信に載せれば、それは広告としての表示です。目的の名目ではなく、置かれた場所と文脈で判断されると考えてください。

8. 掲載前の進め方

症例写真の使用を検討する場合は、次の順序で進めると安全です。

  1. 使いたい写真と掲載先の媒体を特定する(媒体が限定解除の対象になるかを確認)
  2. 写真の近くに置く説明(治療内容・標準的な費用・期間回数・主なリスク副作用)の文面を用意する
  3. 撮影条件のそろえ方や、加工をしていないことを確認する
  4. 患者さん本人の同意書面を確認する
  5. 判断に迷う点があれば、掲載前に保健所や顧問の専門家に確認する

行政からは、広告の内容について指導や、場合によっては中止・是正を求められることがあります。掲載してから外すよりも、掲載前に1回確認する方が、はるかに手間がかかりません。

よくある疑問の整理

顔が写っていない、口腔内だけの写真なら自由に使えるか写り方の問題と、広告としての条件は別の話です。口腔内だけの写真でも、治療の効果を示す広告として使う以上、説明の併記などの条件は同じようにかかります。また、顔が写っていなくても、症例の内容や時期の組み合わせから本人が特定され得るため、患者さん本人の同意も引き続き必要です。

患者さんが自分のSNSに治療前後を載せるのは、医院の問題になるか患者さん本人の発信は、本人の自由な表現であり、医院の広告ではありません。ただし、医院側が掲載を依頼したり、医院のアカウントがそれを取り上げて紹介したりすると、医院の広告としての表示に変わり得ます。「患者さんが載せているから、医院が紹介しても同じ」という扱いはしないでください。

「モニター募集」として写真の提供を募るのはどうか治療費の割引等と引き換えに写真や体験談の提供を受ける形は、広告の条件以前に、同意の任意性や医療広告の品位の観点から慎重な判断が必要です。本記事の範囲では結論を示しませんが、安易に始めるものではなく、専門家への事前確認が必須の領域です。

掲載前チェックリスト

まとめ

症例写真は、見た目の説得力が強い分だけ、条件も厳しくなっています。「他の医院も載せている」という事実は、条件を満たしている根拠にはなりません。自院のページで要件がそろっているかを1枚ずつ確認し、そろわない媒体には載せない——その線引きが、医院の信頼を守ります。


シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。Google口コミへの返信の運用(医院のトーンを言語化した「医院トーン辞書」にもとづく下書きと、医院の承認を経た公開)、口コミの依頼導線の設計、そして定期検診の呼び戻しまで、フロントデスクの裏側の運用を担います。下書きづくりにはAIも使いますが、患者さんとの直接の接点と、公開前の判断は人間が担う——というのが私たちの原則です。

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