医院のSNS発信と医療広告
投稿前に止める線引き
医院のInstagramなどの公式アカウントを、受付が任されている医院は少なくありません。「SNSはホームページと違って自由に発信できる場所」と思われがちですが、実際は逆です。医院名が分かり、受診を誘う発信は、医療広告として医療法の規制の対象になります。しかもSNSは手軽に投稿できる分、確認を経ないまま出てしまいやすい媒体です。
本記事は、投稿を任されている受付の立場から、「投稿前に止める」ための線引きを整理します。判断の物差しを持っておけば、毎回の投稿で迷う時間も減ります。
※本記事は一般的な情報提供です。個別の投稿が規制に触れるかの判断は、表現や文脈によって変わります。迷うものは投稿前に院長へ確認し、判断がつかない場合は所管の保健所や顧問の専門家に確認してください。
1. なぜSNSの投稿が「医療広告」になるのか
医療広告ガイドライン(現行の通称は「医療広告等ガイドライン」)では、次の3つをすべて満たすものを医療広告として扱います。
- 誘引性: 患者さんの受診を誘う意図があること
- 特定性: 医院や医師が特定できること
- 内容: 医業・歯科医業や医院に関する内容であること
医院の公式アカウントの投稿は、医院名が明らかで(特定性)、新規の患者さんに来てもらいたいという意図があり(誘引性)、診療に関する内容を扱います。つまり、原則として医療広告に当たる、と考えて運用するのが安全です。
「広告」という言葉のイメージと違い、チラシや有料の広告枠だけが対象ではありません。無料で投稿する日々の発信も、同じ物差しで見られます。
2. 投稿で使ってはいけない表現の類型
医療広告では、次の類型の表現が禁止されています。SNSの投稿文・画像内テキスト・ハッシュタグにも、そのまま当てはまります。
- 虚偽: 事実と異なる内容(加工・修正した治療前後の写真もここに含まれます)
- 誇大: 事実を不当に誇張し、効果を実際より大きく見せる表現
- 比較優良: 他の医院と比較して優れているとする表現(「地域で一番」「近隣で唯一」など、裏づけの示せない最上級も含みます)
- 体験談: 患者さんの主観にもとづく、治療の内容・効果に関する体験談
- 公序良俗に反する内容
とくに日常の投稿で紛れ込みやすいのは、誇大と体験談です。「絶対に痛くない」「必ず白くなる」「一度で確実に」といった断定、「○○さんも大満足」のような患者さんの声の引用は、投稿前に止める対象にしてください。
ハッシュタグも投稿の一部です。本文で避けた表現をハッシュタグで補う、といった形も成り立ちません。
3. 患者さんの声・口コミの紹介投稿は「体験談」
SNS運用でやりがちなのが、「患者さんから嬉しい声をいただきました」という投稿です。しかし、治療の内容や効果に関する患者さんの体験談は、広告に使うことが禁止されています。これは、医院が書いた文章でなくても同じです。
- Google口コミのスクリーンショットを投稿する
- 口コミの文章を引用して紹介する
- 院内で書いてもらった感想文やアンケートの「声」を載せる
- 「喜びの声」として患者さんの写真とコメントを載せる
これらはいずれも、出典が患者さんであることを理由に許されるものではありません。「本人が喜んで書いてくれた」「許可をもらった」という事情があっても、治療の内容・効果に関する体験談を広告に使うこと自体が禁止の対象です。
なお、口コミへの「返信」の場面での注意点は、別の記事「医療広告ガイドラインと口コミ返信」で整理しています。本記事が扱うのは、医院側から発信する投稿の側です。
4. 症例写真は、SNSに載せないのが安全線
治療前・治療後の写真(症例写真・ビフォーアフター写真)は、ホームページでも厳しい条件のもとでしか使えない素材です。SNSでは、次の理由から「載せない」が安全線です。
- 投稿はタイムラインに流れて届くもので、「患者さんが自ら求めて入手する情報」と言い切れません。詳しい治療情報を広告できるようになる「限定解除」の前提が、SNSでは成り立ちにくいのです
- 写真の近くに、治療内容・標準的な費用・主なリスクや副作用といった詳しい説明を、読みやすい形で固定することが困難です
- 投稿は拡散・保存され、説明文と切り離されて写真だけが独り歩きする可能性があります
「HPの治療ページで使っている写真だから、SNSでも紹介したい」という横展開は避けてください。症例写真の広告としての条件そのものについては、別の記事で整理しています。
5. 価格・キャンペーンの見せ方にも線がある
「今月だけ半額」「モニター価格」など、費用を前面に出した発信も注意が必要です。医療広告では、費用の表示そのものに加えて、品位を損なうような過度な強調が問題になります。割引・キャンペーン表現の詳しい注意点は別のテーマですが、受付の投稿レベルでは、次の2点だけ先に押さえてください。
- 期間や割引率をあおる表現(「今だけ」「残りわずか」など、急がせる言い方)は持ち込まない
- 価格を載せる場合は、対象の治療と条件が誤解なく分かる形にし、院長の確認を経てから出す
迷うキャンペーン投稿は、SNS担当の判断で出さず、必ず院長確認に回してください。
6. 「広告であることの表示」——ステマ規制
もう1つ、医療広告とは別の法律の話として、景品表示法のステルスマーケティング規制(2023年10月施行)があります。事業者の表示であるにもかかわらず、広告であることが分からない形で表示することは、不当表示として規制されます。
医院のSNS運用では、次のような場面が関係します。
- 医院が依頼して、インフルエンサーや患者さんに投稿してもらう場合、その投稿が医院の依頼による表示であることが分かる形(「広告」「PR」などの明示)が必要です
- 対価や特典と引き換えの投稿依頼は、表示の問題に加え、口コミの選別依頼など別の問題にもつながります。そもそも行わないのが安全です
公式アカウント自体の投稿は、医院の発信であることが明らかなので通常は問題になりにくい部分ですが、「第三者の感想に見える形」で発信する企画は、この規制の対象になり得ます。
7. スタッフ個人のアカウントにも注意が及ぶ
線引きは、公式アカウントの中だけの話ではありません。スタッフ個人のアカウントの投稿でも、医院名や院内の様子から医院が特定でき、受診を誘う内容であれば、医療広告として扱われる可能性があります。
- 制服姿や院内で撮影した写真に、医院名が分かる情報を添える
- 勤務先の治療について、効果をうたう内容を書く
- 患者さんとのエピソードを、特定につながる形で書く(これは広告規制以前に、守秘と個人情報の問題です)
個人のつもりの発信でも、患者さんから見れば「あの医院の人の発信」です。院内で「個人アカウントで医院に関わることを書くときの決まり」を1枚にしておくと、トラブルの予防になります。決まりの例としては、「医院が特定される形で診療内容には触れない」「患者さんに関することは一切書かない」「判断に迷うものは院長に聞く」などが挙げられます。
8. 安全に投稿できる範囲
では、SNSで何も発信できないのかというと、そうではありません。広告できる事項の範囲に収まる、事実関係のお知らせが中心になります。
- 診療時間・休診日・臨時休診のお知らせ
- 医院の設備や院内の雰囲気の紹介(治療の効果と結びつけない形で)
- スタッフ紹介(担当する治療の効果をうたわない範囲で)
- 虫歯予防や歯みがきなど、一般的な健康情報(特定の治療の効果・優位性をうたわない形で)
- 予約方法やアクセスなど、受診の手続きに関する案内
ポイントは、「事実のお知らせ」に徹することと、「効果」を言い出したら止まることです。予防の一般情報も、「当院の○○なら予防できます」のように自院の治療の効果へつなげた時点で、線を越えます。
9. 「消える投稿」でも、広告であることは消えない
ストーリーズのように一定時間で表示が消える形式や、ライブ配信についても、考え方は同じです。
- 表示が消える形式でも、投稿した時点で広告としての表示を行ったことに変わりはありません
- 視聴者のスクリーンショットや録画で残り続ける前提で考えるべきです
- ライブ配信中の発言も、患者さんの体験談を紹介したり、治療の効果を断定したりすれば、同じ線引きに触れます
「一時的だから」「フォロワーだけが見ているから」は、線引きを緩める理由にはなりません。むしろ、後から見返して確認しにくい形式ほど、事前の確認を厚くするのが安全です。
10. やってしまいがちな投稿と、直し方
線引きを具体的にイメージできるよう、ありがちな投稿の例と直し方を示します。いずれも特定の医院の投稿ではなく、形としての例です。
例1: 効果の断定
- 止める: 「当院のホワイトニングなら、1回で必ず白くなります!」
- 直す: 「ホワイトニングのご相談を受け付けています。治療の内容や費用は、診察のうえでご説明します」
- ポイント: 「必ず」は誇大・断定の典型です。施術の案内自体は、事実の範囲で書けます
例2: 患者さんの声の紹介
- 止める: 「患者さんから『全然痛くなかったです!』と嬉しい声をいただきました」
- 直す: (この内容は投稿しない。お礼は院内や返信の場面で伝える)
- ポイント: 患者さんの体験談は、許可があっても広告に使えません。「紹介しない」が直し方です
例3: 比較の表現
- 止める: 「地域でいちばん丁寧な治療を目指してNo.1の医院に」
- 直す: 「治療の前には、内容と費用を丁寧にご説明するよう心がけています」
- ポイント: 他院との比較や最上級を外し、自院の取り組みという事実の範囲に書き換えます
11. 運用を外部に任せる場合
SNSの運用を制作会社や代行に任せている医院もあります。その場合も、広告の責任を負うのは医院側です。「業者が作った投稿だから」という扱いにはなりません。
- 投稿の公開前に、医院側(院長または確認担当)が内容を確認する流れを契約や運用の中に入れておくこと
- 本記事のような線引き(禁止類型・体験談・症例写真の扱い)を、業者側とも共有しておくこと
- 患者さんの声や症例写真など、素材の提供を求められた場合は、その場で判断せず院長に確認すること
代行を使う場合でも、「下書きは外部、公開前の判断は医院」という分担が崩れないことが大切です。
12. 投稿前の確認の型
最後に、運用としての型を決めておくことをおすすめします。個人の注意力に頼る運用は、忙しい日や担当の交代で崩れます。
- 下書きは担当が作り、公開は院長の確認を経る(少なくとも、治療・価格・患者さんに触れる投稿は必須)
- 投稿前チェックリストで、禁止類型に触れていないかを確認する
- 迷ったら出さないを原則にする(SNSは「出さない」ことの実害が小さい媒体です)
- 投稿したものは、表現を見直す機会を定期的に持つ(過去の投稿も規制の対象であり続けます)
シカデスクのような代行の立場でも同じで、下書きと公開の間に人間の確認を挟むことが、発信の安全を支えます。
あわせて、投稿の記録(投稿日・内容・確認した人)を残しておくこともおすすめします。アカウントの投稿一覧だけでは、担当が替わったときに「いつ・誰の確認で・何を出したか」がたどれません。簡単な台帳で構いません。過去の投稿に線引きへ触れるものが見つかった場合は、削除や修正を院長と相談してください。
投稿前チェックリスト
- 医院の公式発信として、医療広告に当たる前提で見直した
- 「絶対」「必ず」「一番」など、断定・最上級の表現がない
- 他院との比較や、優れていることをうたう表現がない
- 患者さんの声・口コミ・感想の引用や転載がない
- 症例写真(治療前後の写真)を使っていない
- 価格・キャンペーンは、あおる表現なく、院長の確認を経ている
- 依頼による第三者の投稿には、広告であることの表示がある
- 患者さんが特定される情報(写真・時期・内容の組み合わせ)がない
- ハッシュタグにも禁止類型の表現が紛れていない
まとめ
- 医院の公式SNSの投稿は、原則として医療広告。無料の投稿でも同じ規制がかかる
- 止めるべきは、虚偽・誇大・比較優良・体験談。とくに患者さんの声や口コミの転載は「体験談」として禁止の対象
- 症例写真はSNSに載せないのが安全線。HPで使える条件とも媒体の前提が違う
- 依頼投稿には広告表示(ステマ規制)、スタッフ個人の発信にも医院が特定されれば注意が及ぶ
SNS運用の線引きは、「効果を言わない」「患者さんの声を使わない」「事実のお知らせに徹する」の3点に集約できます。この物差しを投稿前の型にしておけば、日々の発信で迷う場面を減らしやすくなります。
シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。Google口コミへの返信の運用(医院のトーンを言語化した「医院トーン辞書」にもとづく下書きと、医院の承認を経た公開)、口コミの依頼導線の設計、そして定期検診の呼び戻しまで、フロントデスクの裏側の運用を担います。下書きづくりにはAIも使いますが、患者さんとの直接の接点と、公開前の判断は人間が担う——というのが私たちの原則です。
「自院の口コミが今どう見えているか、数字で確認したい」という方には、公開情報だけで作る無料診断があります。口コミの件数・評価・分布と未返信の状況を数字でまとめます。患者さんの個人情報は一切不要です。
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