受付にかかるコストを数字で見る
人件費・採用費・教育費
「受付をもう1人雇うといくらかかるのか」と聞かれて、即答できる院長は意外に少ないのではないでしょうか。給与の額面は分かっていても、社会保険料や採用にかかった費用、教える側の時間まで含めた「受付という機能にかかる月額」は、意識して計算しないと見えてきません。
外注サービスや新しい仕組みを検討するときも、比較の物差しは結局この数字です。「月額いくら」と言われたときに、高いのか安いのかは、自院の受付コストを数字で持っていて初めて判断できます。この記事では、歯科医院の受付にかかるコストを、人件費・採用費・教育費の3つに分けて、自院の数字で出すための手順を整理します。
なお、ここで出す数字は「自院の実績値を使って自分で計算する」ための枠組みです。時給や費用の相場は地域や医院の条件で大きく変わるため、他院の例をそのまま当てはめるものではありません。本文中の金額は、計算の形を示すための試算例として明記した箇所以外は扱いません。
コスト1:人件費——額面給与だけではない
まず一番大きな部分です。パート受付を例に、月額コストの構成を見ます。
- 支給額:時給 × 実働時間。ここまでは誰もが計算します。
- 法定福利費など:社会保険(健康保険・厚生年金)の事業主負担分、雇用保険料、労災保険料など。加入条件を満たすスタッフについては、支給額に上乗せされる事業主負担があります。具体的な料率は制度改定で変わるため、自院の給与明細・顧問の社労士の資料で確認してください。一般的には「支給額の1割台半ば程度が上乗せになる」という見方をされることが多いですが、適用範囲はスタッフの加入状況で変わります。
- 通勤手当・諸手当:支給している医院はこれも含めます。
- 有給・欠勤の扱い:休んでも給与が発生する有給分、逆に欠員時に他のスタッフの残業で埋めた分も、実質的には受付機能のコストです。
計算の型は単純です。「1人の月額総コスト = 支給総額 + 事業主負担分 + 手当」。まず既存スタッフについてこの計算を一度やってみると、「パート1人分」と口で言うときの実額が掴めます。採用を検討する際の物差しは、この総コストのほうです。
勤務時間の「濃さ」も見る
もう1つ、人件費を考えるときに有効なのが「受付が必要な時間帯」の棚卸しです。朝の開院前後、昼のピーク、夕方以降など、受付の負荷は時間帯で大きく変わります。終日フルで必要なのか、ピークの数時間だけ手が足りないのかで、必要なのは「1人分の採用」なのか「数時間の補完」なのかが変わります。コストの議論の前に、足りないのは何時間分か——を先に分けておくと、比較の精度が上がります。
コスト2:採用費——採れるまでにいくらかかっているか
受付の採用は、求人を出せば終わりではありません。採用1回あたりにかかる費用を、項目で洗い出すと次のようになります。
- 求人掲載費:求人媒体の掲載料。有料媒体を使う場合は1回あたりの金額がそのまま乗ります。無料媒体でも、原稿を作る時間はかかっています。
- 面接・選考の時間:書類確認、面接、連絡業務にかかる院長とスタッフの時間。時給換算すると見えてきます。
- 紹介会社を使う場合の手数料:人材紹介を利用する場合は、一般に年収や月給に対する割合で手数料が発生します。割合は契約条件で変わるため、自院が過去に支払った実績か、契約書の条件で確認してください。
- 採用できなかった期間のコスト:欠員の間、残りのスタッフの残業や、受付の手が回らないことによる機会の損失は数字にしにくい部分ですが、「採用が長引くほどコストは増える」という構造は意識しておく価値があります。
ポイントは、採用費を「1回あたり」ではなく「採用1回あたり ÷ 在籍月数」で月割りして見ることです。長く勤めてもらえれば月割りは小さくなり、短期間で離職すると一気に跳ね上がります。採用費の月割り額は、そのまま「離職を防ぐことの経済的な意味」を示す数字にもなります。
コスト3:教育費——教える側の時間が本体
教育費は、教材代のような目に見える支出ではなく、ほぼ「時間」で構成されます。
- 教える側の時間:先輩スタッフや院長が、新人の横について教える時間。その間、教える側の通常業務は遅れます。
- 新人が1人前になるまでの期間:受付業務(電話・予約・会計・保険の基礎)を一通り任せられるまでの期間は、医院の業務範囲や勤務形態で変わります。この期間中は「2人分の人件費で1人分強の仕事量」という状態が続くと捉えると、教育コストの大きさが見えます。
- ミス・手戻りのコスト:予約の取り違えや案内漏れへの対応も、広い意味では教育期間のコストです。金額化は難しいので、ここでは「件数」として記録しておくだけでも構いません。
教育費の出し方の型は、「教育に使った時間(教える側+本人の習熟待ち時間)× それぞれの時間単価」です。正確に測る必要はなく、勤務表と記憶をもとにした概算で十分です。概算でも数字を持つことで、「新人を採る」という選択肢の総コストが見えるようになります。
3つを合算して「月額の物差し」を作る
ここまで出したら、最後に合算します。
受付コストの月額目安 = 人件費(月額総コスト)+ 採用費の月割り + 教育費の月割り
パート受付を1人雇う場合、この合算額が「パート1人分の本当の月額」になります。外部の代行サービスやシステムの月額費用を検討するときは、この数字と並べて比べるのが、最もフェアな物差しです。もちろん、院内のスタッフには電話応対や患者さんとの関係づくりなど、金額に換算できない価値があります。比較は「置き換えるかどうか」ではなく、「どの業務を、どのコストで、誰が担うか」を整理するためのものです。
逆に、この物差しがないと、判断は「月額◯万円は高い・安い」という印象論になります。印象で決めた体制変更は、後から検証もできません。
試算例:架空の医院で計算の形を見る
計算の形を掴むため、実在しない医院を仮定した試算例を1つ置きます。数字はすべて仮置きであり、相場を示すものではありません。自院の計算では、必ず自院の実績値に置き換えてください。
仮定:パート受付1人。仮の時給を1,200円、月80時間勤務(週20時間程度)とします。
- 支給額:1,200円 × 80時間 = 月96,000円
- 事業主負担分:仮に支給額の15%と置くと、月14,400円
- 通勤手当:月5,000円(仮)
- 人件費の月額総コスト:約115,000円(96,000+14,400+5,000)
採用費については、直近の採用で有料の求人媒体を1回使い、仮に掲載費が100,000円、選考に院長6時間・スタッフ4時間(時間単価を仮に3,000円・1,500円として計24,000円相当)かかったとすると、採用1回あたり約124,000円。これを在籍月数で割ると、24ヶ月勤めた場合は月約5,200円、6ヶ月で離職した場合は月約20,700円——同じ採用でも、月割りにすると4倍近い差になります。
教育費は、入職後2ヶ月間、教える側の時間が月20時間(時間単価1,500円と仮置き)かかったとすると月30,000円相当で、2ヶ月分なら計60,000円。在籍24ヶ月で割れば月2,500円の負担として配分できます。
この試算例で大事なのは金額そのものではなく、「額面の時給」から出発した月96,000円という数字と、人件費+採用費+教育費を積んだ月額(この例では約123,000円前後)とでは、物差しの姿が変わるという点です。外部サービスの月額と比較するときに使うべきは、後者のほうです。
採用「できなかった期間」も記録しておく
数字にしにくい一方で、実態として重いのが、欠員が続いた期間のコストです。求人を出してから採用が決まるまでの間、受付の人員が足りない状態が続くと、残業の増加、折り返しや案内の後回し、口コミ返信の滞留など、あちこちに遅れが出ます。これらを金額に換算するのは難しいので、無理に換算せず、「欠員だった期間(日数)」と「その間に後回しになった業務」を事実として記録しておくだけでも構いません。採用費の議論をするとき、この記録があると「採用が長引くこと自体のコスト」を感覚ではなく事実で語れます。
応用:業務の一部だけを切り出してコストを見る
月額の物差しができたら、次に使えるのが「業務単位のコスト」です。受付の仕事はひと塊ではなく、電話・予約管理・会計・口コミ対応・呼び戻し・書類まわりなど、性質の違う業務の集まりです。たとえば「口コミの返信に、月に何時間かかっているか」を測れば、その部分だけを外部に任せる場合の比較ができます。
出し方は単純で、業務ごとの月間所要時間 × 担当者の時間単価です。所要時間は、1週間だけ業務の開始・終了をメモする簡易な記録でも十分に見積もれます(正確なタイムスタディである必要はありません)。実際に測ってみると、「思っていたより口コミ返信に時間がかかっていた」「呼び戻しのリスト作りが毎月まとまった時間になっている」という発見につながることがあります。
この切り出しができると、検討の形が変わります。「受付を1人雇うか、外注するか」という大きな二択ではなく、「裏側の業務のうち、この部分は何時間分で、いくらなら妥当か」という細かい単位で考えられるようになります。外部サービスを検討する際も、月額の総額だけでなく「どの業務の何時間分を引き受けるのか」を先方とすり合わせることが、価格の納得感につながります。
なお、この業務別の時間記録は、コスト計算だけでなく、業務の棚卸しそのものとしても使えます。「そもそもこの作業は必要なのか」「まとめれば頻度を減らせるのではないか」という見直しは、採用や外注の判断の前に済ませておく価値があります。不要な業務まで含めて「足りない」と判断すると、どの選択肢を選んでもコストは下がりません。
数字を出すときの注意点
- 他院の相場に引っ張られない:時給水準は地域差が大きく、都市部と地方では別物です。使うのは自院が実際に出している求人の条件と、実際の支払額です。
- 一度出して終わりにしない:時給改定や体制変更のたびに、年に1回でも見直すと、数字が「今の物差し」として生き続けます。
- スタッフの評価と結びつけない:この数字は体制の検討材料であって、個人のコストパフォーマンスを測るものではありません。その線引きは、院内で数字を共有するときにも明確にしてください。
- 金額にできない部分を切り捨てない:患者さんとの信頼関係や、院内の空気づくりは数字になりません。コスト計算は「全部」ではなく「見える部分の整理」だと位置づけることが大切です。
- 合算した数字は院内の検討材料として扱う:物差しの目的は選択肢の比較であり、数字だけを切り取って「受付にいくらかかっている」という形で独り歩きさせないこと。背景の説明(何のための計算か)とセットで共有してください。その前提があれば、数字は体制を前に進めるための道具として機能します。
この合算を一度やっておくと、採用の判断そのものも変わります。たとえば「欠員が出たので急いで求人を出す」のではなく、月額の物差しと欠員の記録を並べて、「急募で掲載費をかけるのか、数ヶ月は現体制で回してじっくり探すのか」を数字で検討できるようになります。また、時給を少し上げてでも長く勤めてもらうほうが、採用費と教育費の月割りを考えれば総額では安く済む、といった判断も、この物差しがあって初めて冷静にできます。給与水準の議論は印象論になりやすいテーマですが、人件費・採用費・教育費の3点セットで見ると、「1人を採って育てて定着させる」こと全体のコストとして会話ができるようになります。
計算の進め方(チェックリスト)
- 既存の受付スタッフについて、支給総額+事業主負担+手当の月額総コストを出した
- 受付が足りない時間帯と時間数を書き出した
- 直近の採用1回にかかった掲載費・手数料・選考時間を集計した
- その採用費を在籍月数で割り、月割り額を出した
- 新人の教育に使った時間(教える側・本人)を概算し、金額換算した
- 3コストを合算し、「パート1人分の月額」として院内の物差しにした
まとめ
- 受付のコストは人件費だけではない。採用費と教育費を月割りして含めると、実態に近い月額になる
- 人件費は額面ではなく、事業主負担と手当を含めた総コストで見る
- 採用費・教育費は「1回あたり÷在籍月数」の月割りが物差しになる
- この合算額が、採用・体制変更・外部サービスを同じ土俵で比べるための基礎数字になる
数字を出す目的は、コストを削ることそのものではありません。「いまの体制にいくらかかっていて、選択肢はそれと比べてどうか」を、院長が自分の数字で判断できる状態を作ることです。そこが整うと、採用でも外注でも、決断の根拠がぶれなくなります。
シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。Google口コミへの返信の運用(医院のトーンを言語化した「医院トーン辞書」にもとづく下書きと、医院の承認を経た公開)、口コミの依頼導線の設計、そして定期検診の呼び戻しまで、フロントデスクの裏側の運用を担います。下書きづくりにはAIも使いますが、患者さんとの直接の接点と、公開前の判断は人間が担う——というのが私たちの原則です。
「自院の口コミがどう見えているか数字で確認したい」という方には、公開情報だけで作る無料診断があります。口コミの件数・評価・分布と未返信の状況を数字でまとめます。患者さんの個人情報は一切不要です。
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