無断キャンセルの実態を数える
率の出し方と院内での定義
「うちは無断キャンセルが多い気がする」。多くの院長先生がこう感じています。ただ、「気がする」の次に来るべき「では実際は何件で、予約全体の何%なのか」に答えられる医院は、意外に多くありません。
対策の話をする前に、まず数える話をします。この記事の目的は、無断キャンセルを減らす方法の解説ではありません。減らす以前に、自院の無断キャンセルを、毎月同じ定義で数えられる状態を作ることです。定義がなければ率はブレますし、率がブレれば「対策が効いたのかどうか」も分かりません。地味ですが、ここがすべての土台です。
なお、この記事では他院の平均値や一般的な統計は持ち込みません。理由はシンプルで、無断キャンセルの「率」は定義次第で大きく変わるため、よその数字と比べても意味を持たないからです。比べるべきは、自院の先月と今月です。
まず用語を分ける——「キャンセル」は1種類ではない
数える前に、来院しなかった予約を分類します。現場では全部まとめて「キャンセル」と呼ばれがちですが、性質はまったく違います。
- 事前キャンセル: 前日までに連絡があり、来院しなかった(予約を取り消した)もの
- 当日キャンセル: 当日に連絡があり、来院しなかったもの
- 無断キャンセル: 連絡がなく、予約時間を過ぎても来院しなかったもの
- 遅刻: 連絡の有無にかかわらず、遅れて来院したもの(何分以上を遅刻とするかは医院の定義)
この記事で扱う「率」の対象は、原則として3つ目の無断キャンセルです。当日キャンセルまで含めるかどうかは医院の方針で決めてよいのですが、含める場合は「無断+当日」の率として、無断だけの率と分けて数えることをおすすめします。混ぜてしまうと、後から内訳を追えなくなります。
もう1つ、線引きに迷うケースを先に決めておきます。
- 予約時間を過ぎてから「行けません」と電話が来た → 連絡があったので当日キャンセルに分類するのか、無断に含めるのか
- 連絡なく遅れてきたが、短時間で診療できた → 遅刻として別に数えるのか
- 医院側の都合で予約を変更した → 患者さんのキャンセルには含めない(当然ですが、記録上混ざりやすいので明記します)
正解は1つではありません。大事なのは、医院として1つの答えを決めて、全員が同じ分類で記録することです。
率の定義——分子と分母を決める
無断キャンセル率は、次の式で出します。
無断キャンセル率(%) = 無断キャンセル件数 ÷ 分母 × 100
分子は上で分類した「無断キャンセル」の件数で確定します。問題は分母です。候補は主に2つあります。
- 分母A: その月の予約総数(その月に予約が入っていた全件数)
- 分母B: その月の確定予約数(前日の診療終了時点で入っていた予約の件数)
どちらが正しいという話ではありませんが、意味が違います。分母Aは当日の新規予約や直前の変更まで含むので、率がやや低めに出ます。分母Bは「前日の夜の時点で確定していた予約のうち、何件が無断だったか」という、空き枠の発生を直接表す数字になります。医院の運営への影響を見るなら分母B、対外的な説明や長期の傾向を見るなら分母A、という使い分けもできます。
計算の例を1つだけ置きます(あくまで計算方法の例示です)。ある月の確定予約が200件、無断キャンセルが8件だった場合、率は 8 ÷ 200 × 100 = 4% です。予約総数250件を分母にすると 8 ÷ 250 × 100 = 3.2% になります。同じ8件でも、分母の選び方で数字はこれだけ動きます。だからこそ「率は定義とセットで語る」必要があるのです。
件数ベースと、枠(時間)ベース
もう1つの切り口として、件数ではなく「空いた時間」で見る方法があります。30分の予約枠が1件空くのと、60分の枠が1件空くのでは、医院への影響が違います。
- 件数ベース: 無断キャンセル件数 ÷ 予約件数。シンプルで、まずはこちらから
- 枠ベース: 無断で空いた合計時間 ÷ 診療に使えたはずの合計時間。ユニットの空きを金額感ではなく時間で把握したい場合に
最初から両方をやる必要はありません。まず件数ベースで毎月数えられる状態を作り、慣れてきたら枠ベースを足す、という順番が現実的です。
記録の作り方——数えられる形で残す
率は、予約台帳や予約システムの記録からしか生まれません。記録のルールを3点決めます。
- 来院しなかった予約には、その場で理由コードを付ける。 「連絡なし」「当日連絡」「事前連絡」「遅刻○分」など4〜5種類のコードで十分です。後から振り返って付けようとすると、記憶が曖昧になって分類がブレます。
- 記録する人を決める。 その日の受付担当が、診療終了時の締め作業の中で付ける、という形が漏れにくいやり方です。
- 患者さんへの対応と、集計用の記録を分ける。 無断キャンセルした患者さんにどう連絡するか(フォローの方針)は別の運用です。集計の記録は事実だけを淡々と残します。感情的なコメントを残す欄にしないことも、記録を続けるコツです。
予約システムを使っている医院では、ステータスの種類をそのまま理由コードに合わせると二度手間が減ります。紙の台帳の医院でも、記号を決めれば同じことができます。
定義書の例
手順の前に、定義書がどんな姿になるか、例を置きます。医院の実情に合わせて書き換える前提の叩き台です。
| 項目 | 定義(例) |
|---|---|
| 無断キャンセル | 予約時刻を過ぎても来院せず、当日中に連絡もなかったもの |
| 当日キャンセル | 予約当日に、来院しない旨の連絡があったもの(時刻を過ぎてからの連絡を含む) |
| 事前キャンセル | 前日の診療終了時刻までに連絡があったもの |
| 遅刻 | 予約時刻から15分以上遅れて来院したもの |
| 率の分母 | 前日の診療終了時点で入っていた予約の件数(確定予約数) |
| 記録 | 当日の受付担当が、診療終了時の締め作業で理由コードを付ける |
| 集計 | 月末締めで件数と率を出し、曜日別・新規/既存別にも分ける |
「時刻を過ぎてからの連絡」を当日キャンセルに含めるかどうかなど、迷いやすい点こそ先に文字にしておくのが、定義書の役割です。
集計の頻度と、分け方
集計は月1回、月末締めで十分です。出す数字は率だけでなく、件数そのものも併記します。率だけを見ると、分母が小さい月(お盆や年末年始)に数字が跳ねて、実態以上に悪く見えることがあるためです。
そのうえで、次のような分け方をすると「どこで起きているか」が見えてきます。
- 曜日別・時間帯別: 特定の曜日や、夕方の最終枠などに偏っていないか
- 新規の患者さん/既存の患者さん別: 初診の予約と、治療途中の予約では性質が違うことが多い
- 予約の取り方別: 来院時に取った次回予約か、電話やWebで後から取った予約か
- 予約までの間隔別: 予約を取ってから当日までが長いものに偏っていないか
分けてみると、「全体の率」だけでは見えなかった偏りが見えることがあります。たとえば無断キャンセルの大半が「1ヶ月以上先の予約」に集中しているなら、問題は患者さんの意識ではなく予約の間隔の設計かもしれません。対策の議論は、この偏りが見えてからで十分です。
空いた枠をどうしたかは、別の記録にする
集計に付随して、もう1つ記録しておくと役に立つのが「無断キャンセルで空いた枠を、結果としてどう使えたか」です。別の患者さんの予約を入れられた、他の治療の時間を延ばせた、結局空いたままだった——この区別があると、件数や率だけでは分からない「実質的な影響」が見えてきます。ただしこれは率の計算とは別の記録です。空いた枠を埋められたかどうかで無断キャンセルの件数を減らして数えるような操作はしません。事実の記録は事実のまま、影響の評価は別、と分けて扱うのが計測を歪めないコツです。
なお、月ごとの数字には季節の波もあります。お盆や年末年始は予約の動き自体が普段と違い、率もぶれやすくなります。1ヶ月の上下で判断せず、前年同月や直近3ヶ月の平均と並べて見る習慣を付けると、数字に振り回されなくなります。計測は「始めた月」から意味を持ち、続けるほど資料としての価値が上がるものです。
定義を院内で統一する手順
ここまでの内容を、医院の「定義」として固定する手順をまとめます。
- 院長が分類と分母を決める。 上の分類(事前/当日/無断/遅刻)と、分母(予約総数か確定予約数か)を選びます。
- 1枚の定義書にまとめる。 分類の定義、迷うケースの扱い、理由コード、記録の担当とタイミングを、A4・1枚に収まる分量で書きます。
- スタッフ全員で読み合わせる。 とくに「時間を過ぎてから連絡が来た場合」など、迷いやすいケースを具体例で確認します。
- 1ヶ月試行して、分類に迷ったケースを持ち寄る。 迷ったケースが出たら定義書に追記します。定義はここで育ちます。
- 定義を変えたら、変えた月を記録する。 後から推移を見るときに「数字が変わったのは定義変更のせいか、実態の変化か」を切り分けるためです。
分類に迷うケースは、ゼロにはなりません。迷ったときに「定義書のこの行に従う」と言える状態を作るのが目的です。
数え始めるときの、よくある疑問
過去の記録が残っていないのですが、いつから数えられますか。今日からで構いません。理由コードを付ける運用を始めた月が、集計の起点です。過去分を記憶で復元しようとすると分類がブレるので、遡って数えない方が正確な推移が取れます。
予約システムに「無断キャンセル」のステータスがありません。システムのステータスに「キャンセル(理由自由記述)」のような汎用のものがあれば、当面はそこで運用し、理由の内訳は締め作業のメモで補う方法もあります。大事なのは、システムの都合に合わせて定義を曲げるのではなく、定義に合う記録の残し方を決めることです。システム更改のタイミングでステータスを揃えるのが理想です。
分母を「来院した患者数」で出してはいけませんか。おすすめしません。来院数で割ると、無断キャンセルで空いた枠の影響(本来診られたはずの人数)が分母から消えてしまい、率が実態より小さく出ます。予約を起点にした分母(予約総数か確定予約数)が、空き枠の問題を捉える数字になります。
率が高い月と低い月の差が大きいのですが。分母が小さい月は率が動きやすく、1〜2件の差で見た目が大きく変わります。件数と併記する、3ヶ月単位の平均も併せて見る、という見方にすると判断を誤りにくくなります。
数字の扱い方——院内での共有で気をつけること
数え始めた数字は、院内で共有して初めて意味を持ちます。ただし共有の仕方には注意点があります。
無断キャンセルの数字は、受付スタッフへの責任追及の材料にしないでください。記録を付けるのは受付の仕事であることが多いため、「数字が悪い=受付の管理が悪い」という受け止め方をされると、記録そのものが嫌われ、分類が甘くなっていきます。数字は「どの時間帯に・どの種類の予約で起きているか」という構造を見るためのもので、誰かを責めるためのものではありません。この前提を院長自身が最初に言葉にして共有することが、計測を長く続ける条件です。
数え始めたら、やらないこと
数字が出てくると、つい他院と比べたくなりますが、次の2つはおすすめしません。
- 他院の公表値や「業界平均」と比べる。 先述の通り、定義(分母・分類)が違えば数字は別物です。分母の定義が公開されていない平均値と比べて一喜一憂しても、医院の判断材料にはなりません。
- 率の低下を、そのまま「対策の成果」と断定する。 月ごとのブレや季節要因もあります。少なくとも数ヶ月の推移で見ること、そして定義を途中で変えていないことが前提です。
無断キャンセル率の正しい使い方は、「先月と比べてどうか」「どこに偏っているか」を、自院の中で継続して見ることです。
まとめ
無断キャンセル対策の第一歩は、リマインドの工夫でも、患者さんへの注意喚起でもなく、数える仕組みです。分類を決める、分母を決める、理由コードでその場で記録する、月1回・同じ定義で集計する。始めるのに特別な道具はいりません。来月の締め作業から理由コードを付け始める、それだけで計測の初年度がスタートします。この地味な土台があって初めて、「多い気がする」が「先月は確定予約200件中8件、4%」という議論できる数字になります。対策を検討するのは、その数字が見えてからで遅くありません。順番を守ることが、遠回りに見えて一番の近道だと考えています。
シカデスクは、歯科医院専門のフロントデスク運用代行です。来院が止まってしまった患者さんへの定期検診の呼び戻し(対象の抽出・文面の作成・送信・戻った予約と来院を数えての報告)と、Google口コミへの返信の運用を、すべて医院の承認制で担っています。私たちが報告で使うのも、「案内のあとに来院した人数」のような数えた事実です。効果を約束するのではなく、数えて、事実をお渡しする——という姿勢は、この記事で書いた計測の考え方と同じです。文面の下書きはAIも使いますが、患者さんとの直接の接点は人間が担います。
医院の口コミの現状(件数・評価・未返信の状況)は、公開情報だけで作る無料診断で確認できます。患者さんの個人情報は一切不要です。まずは数字からご覧ください。
無料診断のご案内
無料診断を受ける